My own work-life balance

柔道の谷亮子選手。北京オリンピックでは銅メダルを獲得。
ただこのニュース、無差別級の上野雅恵選手の連覇よりも、一般人やワイドショーの話題に多くのぼっているような印象を受けた。それも「『ママでも金』ならず」という論調で。翌日の記者会見で、子供が熱を出していたので早く日本で治療を受けさせたい、というコメントがあったせいもあるだろうか。blogなどでは、「小さい子供を連れてくるのがよくない」「言い訳ではないか」という厳しいコメントも目にした。
また、出産・育児経験のある母親たちからは、「育児は、オリンピック向けのハードな練習と両立できるような甘いものではない」「『ママでも金』は『やっぱり』無理だった」というような意見もあった。もちろん、多くの意見は「ママでも銀メダルを取ったことは素晴らしいことだ」というものだったが。

現役バリバリで結婚、出産。「谷亮子でも金」さらに「ママでも金」を目指した彼女の姿勢は、これから結婚して子どもをもとうという若い女性たちのロールモデルとなっているのではないかと思う。おそらく本人もそれを意識していたことだろう。ママでもベストを尽くし、仕事でもベストを目指すスーパーマザーだ。確かにロールモデルとしては大変わかりやすい。しかし、谷亮子をもってしても、そのロールモデルは「実現」の日の目を見ることが出来なかった。

特に若い女性はわかりやすいロールモデル(サクセスモデル)を設定したがるという話もある(内田樹・「疲れすぎて眠れぬ夜のために」)。ファッション雑誌にさりげなく織り込まれるサクセスモデルは、女性の意識(または無意識)に、到達困難なハードルを設定してゆく。


「ママ(まれにパパ)の現役復帰」は一般的に生やさしいものではない。子供の状態・性質、親の心身の健康状態(もともとの体力も含む)、周りの協力体制、などなど、複数の「好条件」がすべてそろったときに初めて復帰が可能になると思うのだ。そうでなければ母または父はかなりの「茨の道」を歩むことになる。たまに、ほいっとスムーズに現役復帰できちゃう人がいると、茨の道を歩んだ人は、「なんであの人はあんなに簡単に復帰できちゃうの?」と、うらやんでしまうことになる。「わたしは復帰の時大変だったから、あなたのことをバックアップしてあげるわね」と、果たして言えるだろうか。残念ながらわたしは言えなかった。そして、他人のスムーズな復帰を素直に喜べない自分に、とまどっていた。
冷静に考えると、100人いれば100通りのお産があり、100通りの育児があるのは当たり前だ。たまたま軽く済んだ人を、異常妊娠だった人(私を含む)がうらやんでみても仕方がないし、もとより、それを無理して喜ぶ必要もない。
また、仕事復帰に関して言えば、人それぞれ、自分に合ったワークライフバランスがあるのだ。わかりやすくするために、ロールモデルを設定することはあるだろうし、憧れの人がいることはいちがいに悪いこととも言えない。でもあくまで基本は"My own balance"。それを各自で試行錯誤の中から見つけて、実現の難しいところで無理を通すよりとりあえずできるところからさくさく実現していくことが、幸せへの早くて確実な道なのだろうと思う。